◆Alice in wonderland.

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  「……もっとも、今回のように『空になった肉体があることが分かっている』場合には、その限りではありませんが」  急いでいる理由はそこだ。  仮にその事実を知っているのが俺だけであったなら、何の問題もなかったのだ。  俺は人様の肉体を奪ってまで生き返る気などサラサラないし、奪ったとしても、その後アリスの容姿で生きていくことを考えると無理がある。見た目は少女、中身がオッサンではキツい。  しかし、この国にはもう一人、『空になった肉体があることを知っている人物』がいる。  あの、入国手続き所にいた口周トマトソース女だ。  いま思うと、『アリスに記憶がない』と分かったときのあの女の反応は少しおかしかった。  老人の話を聞いた直後に、もしやと思って家に戻ったときには遅かった。  家には既にアリスの姿はなく、床にはトマトソースの跡が点々と残っていた。  家で会ったときにあの女が食べていたのはペペロンチーノだったので、トマトソースが落ちているのはおかしい。再び家を訪れたのは明白だ。  間違いない。あの女は、アリスの肉体に不正憑依しようとしている。  だが待てよ――脳裏に若干の疑問が湧く。 「なあ、地上に降りて空の肉体を奪うだけなら、なんで魂の方のアリスを拐って行ったんだ?」  いまのアリスには記憶がない。ならば、拐って肉体の場所を聞こうにも、訊ねようがないではないか。  その問いに、今にも吐血しそうな咳払いをしてから、老人が答える。 「ええ、恐らくはコンパスがわりに使うのかと……魂と肉体というものは引かれ合うものですから」  恐らく後半は何かの引用だなと思った。  だがまあ、何となく雰囲気だけは理解した。  そこで、前方に人影を見つける。 「……いた、アイツだ!」  理屈まで理解する暇はなさそうだ。  
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