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「待て!」
走りながら、前方に見える背中に叫ぶ。
あの女が振り向いた。アリスは女に抱き抱えられたまま、動かない。
「あらあらあら、なんのご用でございましょう?」
「とぼけるな。お前のやろうとしてることは分かってるんだよ。アリスを離せ」
女と少し距離をおいて立ち止まる。
女の後方には地面がない。
『国の端っこ』という名前そのままに、そこでスッパリと国土が途切れているようだ。
「んふふー、残念でしたあ。やろうとしていることが分かっていたなら、そこで立ち止まるべきではなかったですねえ」
「どういう……」
んふふふふという、堪にさわる笑い声と共に、女の身体が後方に傾く。
「まさか――」
飛び降りる気かっ、と言おうとしたところで、背中に衝撃が加えられた。
その勢いに吹っ飛びながらコケた俺は、思わず目の前にあった女の足を掴んだ。
「その足を離してはいけませんぞ! バラバラに落ちたら、辿り着く場所もバラバラ……二度と追えません!」
後ろから押してきたのは、あの老人だった。
そのまま俺は、落ちる女の足を掴みながらズルズルと引っ張られ、国の端っこから転落した。
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