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「はい、じゃあ、この承諾書にサインをお願いしまーす」
見るだけでやるせない気持ちになるトマトソースまみれの紙と、5本で100円ぐらいの値段で売っていそうなサインペンを差し出してくる女。
「いや、その……承諾書とかサインと言われても、俺はまず、ここがどこかも解らないんだが……」
不用意にサインをすれば痛い目を見る時代。一応その辺りは聞いておきたい。
「ああ、ここですか? ここは入国手続き所です」
入国手続き所?
「………………」
「……え? 説明終わり?」
「終わりですけど……何か?」
そんな風に言われたら、まるで俺の方が悪いみたいじゃないか。
「いや、もっと詳しく……どこの国なのかとか、何の承諾書か、等の説明をして頂きたいのですが」
そして、何故俺は敬語ですか。
「あー……はいはい、そういう意味ですか。この先にあるのは国です。そして、この承諾書は、あなたが国で暮らすことを承諾した――と、いうことを証明するための書類です」
他にどういう意味が……というか、今の説明、全然詳しくない。むしろ内容が二度手間だ。
「いや、だからその国名とかを……」
「国は国ですよ。『天国』とか『地獄』とか呼ばれている国です」
なるほど。『天国』とか『地獄』とか呼ばれてる……ん?
「それって、どういう意味……」
「まだ解りません? あなた、もう死んでいるんですよ」
『お前はもう、(自主規制)』?
某世紀末漫画の主人公の決めゼリフが、光速で俺の頭をよぎる。
これからどうなる? 俺の人生……って、もう死んでるのか。思考を巡らせるのにも面倒な状況だな、ホントに。
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