◆Prologue.

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  「はい、じゃあ、この承諾書にサインをお願いしまーす」  見るだけでやるせない気持ちになるトマトソースまみれの紙と、5本で100円ぐらいの値段で売っていそうなサインペンを差し出してくる女。 「いや、その……承諾書とかサインと言われても、俺はまず、ここがどこかも解らないんだが……」  不用意にサインをすれば痛い目を見る時代。一応その辺りは聞いておきたい。 「ああ、ここですか? ここは入国手続き所です」  入国手続き所? 「………………」 「……え? 説明終わり?」 「終わりですけど……何か?」  そんな風に言われたら、まるで俺の方が悪いみたいじゃないか。 「いや、もっと詳しく……どこの国なのかとか、何の承諾書か、等の説明をして頂きたいのですが」  そして、何故俺は敬語ですか。 「あー……はいはい、そういう意味ですか。この先にあるのは国です。そして、この承諾書は、あなたが国で暮らすことを承諾した――と、いうことを証明するための書類です」  他にどういう意味が……というか、今の説明、全然詳しくない。むしろ内容が二度手間だ。 「いや、だからその国名とかを……」 「国は国ですよ。『天国』とか『地獄』とか呼ばれている国です」  なるほど。『天国』とか『地獄』とか呼ばれてる……ん? 「それって、どういう意味……」 「まだ解りません? あなた、もう死んでいるんですよ」  『お前はもう、(自主規制)』?  某世紀末漫画の主人公の決めゼリフが、光速で俺の頭をよぎる。  これからどうなる? 俺の人生……って、もう死んでるのか。思考を巡らせるのにも面倒な状況だな、ホントに。  
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