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翌朝、みずきは空腹と共に目覚めた。
(あんな事があったのに……)
どんな事があっても、朝は来るし、お腹は減る。
時計を見れば、午前11時を過ぎていた。今日が土曜日でよかったと思う。
エアコンの電源を入れ、カーテンを開ける。鏡を覗けば髪はぐしゃぐしゃ、泣きすぎて目も腫れていた。
(喉……渇いたな……)
冷蔵庫を開けて、水の入ったペットボトルに手をかける。正面にちょこんと置かれた箱から目を反らし、扉を閉めた。
微かに聴こえる振動音…………自動タイマーで電源が入ったらしい。
みずきはため息をひとつ落とし、玄関に置いたままの鞄から携帯を取り出した。
着信と留守電とメールが、山のように残っている。すべて藤崎からだ。
みずきは携帯のボタンを押す。
『メッセージは22件です』
『みずきちゃん、今何処にいるの?』
『ちゃんと話がしたい』
『ごめん、みずきちゃん』
『今、部屋の前にいる。まだ帰ってないの?』
『返事はいらないから、ちゃんと部屋に帰って』
聞こえて来るのは、みずきを心配する言葉ばかり。
(ずるい……)
こんな事されたら無視出来ない……
『帰ったから心配しないで』
みずきはそれだけメール送信し、携帯を閉じた。冷蔵庫の扉を開け、乱暴に箱を取り出す。
箱の中身は小さなホールケーキだった。イチゴと生クリーム、砂糖菓子のサンタ、板チョコには「メリー・クリスマス」と書かれている。
みずきは箱を炬燵の天板に置き、ペットボトルの蓋をけ、一気に飲んだ。ケーキを取り出し、フォークで生クリームを掬う。
ケーキの上で笑うサンタにまた泣けた。
「振られちゃう……かな……」
確信に似た予感……
胸に落ちる苦さを誤魔化すように、みずきはフォークの上の生クリームを頬張った。
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