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「いらっしゃいませ」
扉を開けると、カウンターの中から柔らかな声が響く。
週末のせいか、店内は思ったより混んでいた。
みずきはカウンターの一番端に座り、コートを椅子の背に掛ける。
サイフォンから立ち上る珈琲の香り、奥の棚には高価そうな珈琲カップが並んでいる。
「隣空いてますから、使ってくださいね」
水とお絞りを置くと、マスターはカウンターの反対側にいる男性客と談笑をはじめた。
少しほっとしながら、みずきはメニューを手に取る。
前に来た時も思ったが、珈琲専門店にしてはフードメニューが充実している。
(あ、ビーフシチュー……)
文字を見ただけで、お腹が鳴った。
慌てて周りを見てほっと息をついてから、ビーフシチューを注文した。
こういう店にはジャズやクラッシックが流れているイメージだったのだが、店内に流れているのは中国庭園に似合いそうな弦楽器の情緒的な曲だった。
(確か二胡って言うんだっけ……?)
聴いていると不思議と落ちつく。
聞き覚えのある曲だった。
(何ていうんだっけ……)
瞼が重くなる。
(疲れたなぁ……)
目を閉じて、息を吐いた後、意識が途切れた。
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