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(え……)
至近距離に男性がいる。
一瞬、状況が掴めず固まった。
珈琲の香り、ここが喫茶店であることを思いだし、みずきははっと身体を起こした。
店内に他の客はおらず、時計に目をやると既に9時を回っていた。
「すみません、私っ……」
「慌てなくて大丈夫ですよ」
マスターは優しい笑みを向けて席を立とうとしたみずきを制した。
「でも、もう閉店ですよね?」
「この雨なので、早目に閉めたんです。何時もはまだ開いてる時間ですから」
マスターはカウンターに戻り、鍋を火にかけた。
「折角ですから食べていってください、ビーフシチュー」
落ちついた声がみずきをほっとさせる。
「ありがとうございます」
みずきは軽く頭を下げ、手にしたコートを椅子に戻した。
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