2月の恋

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「美味しいっ」 ひとくち食べて、みずきは思わず声を上げる。 肉も野菜も柔らかく煮込まれ、それでいて風味はしっかり残っている。仄かに赤ワインの香りがして、喫茶店とは思えない程本格的だった。 「ありがとうございます」 マスターは嬉しそうに微笑んで、トーストの皿をみずきの前に置いた。 「……甘い匂いがしますね?」 「アーモンドトーストです」 みずきは首を傾げながらひとくちかじる。 香ばしいアーモンドの香りが口の中に広がった。 「美味しい……」 「常連さんのリクエストでメニューに入れたんです。この辺りでは珍しいでしょう?」 みずきは頷く。 多弁ではないが、穏やかな声音は耳に心地よかった。 激しい雨音さえ優しく聞こえる。 ひとりきりじゃない夕食は久しぶりで、他愛ない会話は渇いてひび割れた大地を潤す雨のように、みずきの心を優しく満たしてくれた。 食後の珈琲までしっかり頂いて、みずきは席を立つ。 雨足は弱まったものの、まだ結構降っていた。 「遅くまですみませんでした」 勘定を終えて扉に手をかけたみずきに、マスターが傘を差し出す。 「どうぞ。紳士物ですが、折り畳みだと濡れますから」 「でも……」 「たくさんあるので大丈夫ですよ」 「ありがとうございます」 柔らかな笑みに押され、みずきは大きめの傘を受けとった。 外気は冷たかったけれど、傘を叩く雨音は不思議と暖かく聴こえた。
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