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「昨日はすみませんでした」
翌朝、ロッカーに入ったみずきに菜穂は勢いよく頭を下げた。
「ううん。どうだったお店?」
「いい雰囲気のお店でしたよ。ワインも料理も美味しくて」
菜穂につられてみずきも自然と笑顔になる。
「料理だけでも楽しめそうだから、今度一緒に行きましょうね」
「昨日のお礼にご馳走しますから」と言いながら、菜穂は元気よくロッカーを出て行く。
「朝から元気だねぇ」
そう声を掛けてきたのはお腹の大きな先輩だった。
小柄で可愛いらしいのに、竹を割ったような性格はそこらの草食男子の十倍は男らしい。
彼女は後二ヶ月で産休に入る。
「久保さん、だいぶ大きくなりましたね」
「そうなの、もう寝返りもうてなくて」
おどけたような口振りに、みずきは笑ってしまう。
「仕事代わってやったの?お人好しだね」
「特に予定もなかったですし」
曖昧に笑うみずきの髪を、久保はくしゃりと撫でる。
「しんどくなったら言いなよ」
「久保さん……」
二ヶ月前、みずきと千夜子の間に起きた一件を久保だけは知っている。
弛みそうになる涙腺に蓋をして、みずきは笑顔をつくった。
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