2月の恋

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傘を借りた日から一週間、その日は特にトラブルもなく閉店し、定時丁度にパソコンを閉じ席を立った。 「今日は冷えますねぇ……」 菜穂は視線を上げ、白い息を吐く。 澄んだ空気に街路樹のイルミネーションが鮮やかに輝く。 「そう言えば来週ですよね、バレンタイン」 「あ、そうだね」 「先輩は誰にあげるんですか?」 「誰って……特に予定はないけど」 「だってそれ、紳士物ですよね?」 みずきの手にある傘を目敏く見つけて菜穂は言う。 「ああ、これは借り物」 「へぇ~」 「喫茶店で借りたの。菜穂ちゃんが期待するようなことじゃないから」 意味ありげな視線を向ける菜穂に、みずきは言い訳のように呟く。 「ふぅん……これから返しに行くんですか?」 「まぁ」 「寒いですよねぇ~温かいものでも飲みたい気分ですねぇ」 こういうことを言っても許されるのは、さっぱりとした気質のせいだろう。 みずきは苦笑いを返しながら、「一緒に来る?」と菜穂を誘ったのだった。 「いらっしゃいませ」 みずきに気づくと、遊佐は人懐こいみで二人を迎えた。 「先日は傘をありがとうございました」 「何時でもよかったのに」 そう言いながら、カウンターを出て傘を受け取る。 店内は空いていたが、菜穂に押されるようにカウンターに腰を下ろす。 「お友達ですか?」 「会社の後輩で……」 「園田菜穂です」 菜穂は接客の時にも見せないような満面の笑みを遊佐に向ける。 「遊佐です」 言いながら視線を向けられ、「葵みずきです」と名乗った。
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