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小嶋への当て付けでも何でも無く、本当に門限が迫っていたので、俺はダッシュで帰る羽目になった。それでも間に合いそうになかったので、裏道を通るしかなかった。
街灯の無い裏道では、月が街灯のように感じられ、見上げてみると月が見事に金色に輝き、絵になる風景だった。
ほんの数瞬見惚れてしまっていたため、最初は何が起きたか分からなかった。
『ザシュッ!』
普段耳にしない鈍い音と共に何かが背後からぶつかってきた。
振り返るとソイツは俺に深々とナイフを突き刺していた。
その刹那に、俺の全身を痛みと熱さが支配した。
俺はその場に倒れこむと同時に、声にならない声をあげていた。全身から出すような声。
ソイツは俺を何度も俺を刺し続けた。フードを被っててよく見えなかったが、眼だけは異常に輝いていた。
やがて、満足したのか俺を刺すのを止め、ソイツは俺の来た道とは反対側に走り去っていった。殺した後悔というより、興奮を冷ますために走っているようだった。
気がつくと、俺の周囲には闇が広がっていた。何も見えない、聞こえない、感じない、俺の意識だけがそこにあった。
―その意識さえ呑み込まれそうだ。世界が無となっていく。―
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