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その街から澄み渡るような歌が響いていた。その歌声は澄んだ空気を余す事なく伝わり、まるで風が歌っているかのようだ。
だけれど、残念な事にその街の壁には入口が無い。
「どうやって入るんだろ……」
思わず呟く。その街の入口も出口も見当たらない。こんな閉鎖空間で人が本当に生きているのだろうか……。
入ることを諦めた僕は仕方なく、その街から少し離れた所を流れる川にテントを張ることにした。
やがては来る夜に備え、テントの骨を組み立てる。
旅を出たときはお金もあり楽だったが、日が進むごとに自給自足や交易の日々になり、自分が、実は商人なんじゃないか、と思ってしまうときがある。
でもまぁきっと自分が旅人だと思っている限りは旅人なんだろう。ほら……あれだ、大人の体に子供の心と同じ原理何だろう。
そんな事をまた考えながら火を起こしていると、居候相方のクーが車から、のそのそと降りて来た。
「あれ今日は野宿……?」
「ああ。街は見つけたけど、入口が無くてね」
「そっかー……。久々のテント~」
「そんな事より近くの川で食料を取って来てくれると嬉しい。天食(てんしょく)も近い」
「もうそんな時期なんだ……。うーん……フェイの銃使っていい?」
「嫌だ。自分のを使うんだ」
「ぇーーー。だって私のは引き金が重いよ?」
「手 入 れ し ろ」
ぶつくさ言いながらもクーはホルスターに自分の銃をつっこむと走り去っていく。
「川は反対だぞ」
「…………」
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