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「あ、うん、別れちゃったんだ」
「お前また……いつもなんでそんな平気そうなんだよ」
「そうかな?」
僕は薄ら微笑みを浮かべる。
僕は付き合う気もないのだが、何となく彼女‘っぽい’人が出来て、何となく居なくなってしまう。
決して僕から近寄ったりしない。まして僕から付き合おうという気はさらさらない。寄ってきた人が好意をよせてきて、でも僕はきっと素っ気なくて、それで離れていく。僕はその営みを何とも思わない。
「モテるやつはいいよなあ」
そうだろうか。
「僕は、好きな女に一途にアタックしては砕けてる君みたいなやつのほうがいいと思うけど」
「何だよその言い草は!」
こうやって笑っているとすっかり僕が心のない人間だなんてこと忘れてしまう。好きになった人に求められなくて傷つくことに怯えるくらいなら、好きになってくれた人に優しくしてあげて、要らなくなったら居なくなってもらうほうが、きっといい。
もちろん本当は、求める人に求められる喜びが欲しいんだ。でもそれは、なかなか叶わない。
「まだ、引きずってんの?」
「いや、まさか……」
一度だけ、愛した女性に傷つけられただけ。それが何故か、抉られて消えないような傷になっていた。
「あのなあ、人は、傷つかないと大人になれないんだ」
そう言う。
「傷が増えれば増える程大人になれるんだ」
「一利ある。だとしたら、人は一生大人になれない」
笑った。
夏の蒸し暑い風が僕らを包み込むと、その先にあったのは肌を焼くような陽射しだった。
それはまるで僕が傷つけられたときに感じた、予感と現実のようだった。
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