残像

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 たまに、朧げによみがえる感覚。それに追随する景色。  何かが私の奥深くに進入してゆく。それは幾度も幾度も私を壊すように突き刺さる。やがて痛みは消えて、幾度と突き刺さるものへの抵抗力がなくなってゆく。私は外部からの攻撃に、慣れてゆく。薄らと目の前にヒトの顔が浮かぶ。その顔と私は近くにあって、それがオトコであることに気付く。そして、そのヒトは私のことを虚ろな目で見ている。私を冷淡に見つめているようにさえ見える。やがて肩が見えるようになる。肌だ。裸だ。彼は裸の状態で、寝そべった私の両肩の上に両手を置き、自らの身体を支えている。その両腕に私の両脚が絡まっている。私は揺られている。  そんな過去という幻影が数秒のうちに頭を過ぎり、そして目に見えぬほど薄らと私の脳裏に残像を残す。そして切なくなる。身を呈した自分が。相手の感情を弄られることで得ようとした自分が。  こんなの、こんな残像、消えてよ!  その気持ちと裏腹に寂しさが込上げて、彼に会いたいという不埒な想いに駆られる。もう会わないと決めたの。電話番号もアドレスも消した、私自身アドレスを変えた。2回ほど彼から電話が来た。たまたま気付かなかったし、私もかけなおすことはなかった。  よかったんだよね……そう自分に言い聞かせるのに必死になる。よかったの。よかったの。誰も押してくれない背中を自分で必死に押し出す。そのまま私は他の男と、きっと――  
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