にがい粉砂糖

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  「わかったから」 「ほんとに?」 「ホント」 「ここにいる?」 「いるいる」 「……なんで?」 「おまえがいろって言ったんだろ、酔っ払い」  にらんだら、笑った。へんな女。  なんだか調子が狂う。 「あたしさ、コレうまいよ」  得意げに言う女がようやくゲームを発進させる。ハンドルさばきは悪くないのがすぐにわかった。  赤い爪が縦横無尽に飛び回る。  スタートが遅れたのになかなかいいタイムがでそうだ。うまいかもしれない。  なんだか悔しくて、気づかれないように近づくと、俺はピアス穴の開いた耳に息を吹きかけた。 「あ」  スリップ。  間抜けな機械音が流れてきて、笑いがこみあげた。  俺の勝ち。 「バーカ」  そのまま帰るつもりだった。へんな女に仕返しして満足したまま、あの、誰もいない家に帰ろうと思っていた。  一歩踏みだした瞬間、体が急にかたむく。  腕の次には肩を引かれて、さらに体勢が崩れたとき、気がつくと女の顔が目の前にあった。  驚いて動けないでいると、女はすぐに俺を離した。 「ガキ」  小さく唇をなめるそいつは笑っていた。 「おい」  ジャンパーの袖で口をふきながら顔をしかめて声をかけても、女は知らん顔で背を向ける。  金髪が、ゆれる。 「待てってば」  さっさとゲーセンをでたそいつの後を追って俺は外にでた。  紫のジャンパーに、ジーンズと男ものの紺のマフラー。真っ赤にぬった爪。  夜の都会の人ごみに出でも、見失わなかった。  だってそいつは俺を待ってたから。 「ねえ、見なよ」  うれしそうにそう言って手のひらを広げると、空を見上げて回った。  白い光の粒がそいつを囲むように、深夜の空から降り注ぐ。 「あ、雪……?」  気づかなかった。どうりで冷えるわけだ。  でも、昨日の方が寒かったはずだ。  なんて気まぐれな雪だろう。 「ねぇ、あんた名前は?」  女が白い光をを捕まえながら無邪気な口調できいてくる。 「山田太郎」 「うそだ」 「ホント」 「ホント?」 「うそだよ」  あっさり言うと、女はあきれたようにまた笑った。  教えないよ。だってその方が気まぐれなあんたとは付き合いやすそうだから。  
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