ルーレットの傷

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この時、達也のプラスは100万前後をうろうろしていた。   そのチップを涼子の前に移動すると、 『合図したら、僕のベットするところに全部置いてくれる』   『えっ!』涼子は驚いた様子だが、 『わ、解った』 と、了承した。   藤原は例によって、小さい数字へ。 青年が賭け終え、御婦人もばらばらとチップをまいた。   達也は何もせずにチップをまとめている。   ディーラーが球を投げ入れた。   その瞬間。   達也は、1~9の小さな数字のサイドベットに、10万、20万、30万とチップを賭け始めた。   40万目を賭ようとした時、ディーラーがベットを手でさえぎろうとした。   『涼子❗行けっ』達也が叫んだ。   驚きながらも、準備万端の涼子は、 100万分のチップを、1~9のサイドベットへ押した。   かろうじて、達也の40万目もベット。 達也が、50万目を手にした時に   ディーラーが『ノーモアベット』 受け付けを拒否された。   『おおっ!兄ちゃん勝負やな』   藤原が声を賭ける。   上村は、自分のベットと相入れない達也のベットに顔をしかめる。   涼子は、胸に手をあて、球の行方を凝視している。   みんなが、固唾を飲む。   こんな時、則ち、誰かが大きな勝負をした瞬間。   カジノの時間は止まる。   周りの客やプレイヤーが、あたかもその勝負を自分自身のように集中する。   達也の140万のベットが、スクリーンに映され、分割画面が、球を追う。   球がスローダウンすると   涼子が達也にしがみついた。   綺麗にネイルケアされた、涼子の爪が、達也の腕に突き立てられた。   球がルーレットの側壁から、ダウンし始めた。   球の速度が低下すると、いよいよ全てが、スローモーションなる。   コン、コン、コン   規則的なバウンドを繰り返し、最終地点へと球が向かう。   (0か?) 一瞬、達也に不安がよぎる。   コンコンコン   球は一気に減速し、着地した。   誰より最初に涼子が反応した。 達也に立てた爪が力を増し 『た、達也っ❗』   『ああっ』 達也が、涼子の手に手を重ねた。   (0)の一つ手前。   『ナンバー2』   ディーラーの声が響く
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