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会話を繋ぐ言葉が見付からず諦めかけた時だった。
「俺、藤崎勇気。よろしくな!」
藤崎君は満面の笑顔で右手を差し出した。
その笑顔はとても爽やかで眩しくて、あたしの胸をキュンと締め付けた。
胸が、痛い?
普段から人の目を真っ直ぐに見ることの出来ないあたしは、ふいに見せられた笑顔に動揺し藤崎君から桜へと視線を移した。
普通なら、これが恋だと気付くかもしれない。
だけど恋をしたことのないあたしは、いつもの緊張感だと思っていた。
流石にそっぽを向いままは失礼だと思い、藤崎君の胸元に視線を戻したその時。
ガラガラガラガラ。
「おーぃ、席に着けー」
突然教室のドアが勢いよく開き、担任が教室に入ってきた。
ざわついていたクラスメイトは話を中断してそれぞれの席へと戻っていく。
「また後でな!」
藤崎君もそう言うと自分の席へと戻りだし、そんな彼の後ろ姿をあたしは無意識に目で追っていた。
藤崎君は席に着くと、あたしの視線に気付いたのかニッコリと微笑んでくれたのだけれど、反射的に視線を逸らしてしまった。
ドクドクドクドクと脈打つ心臓の音。
藤崎君を意識して、固まったままピクリとも動かせない体。
自分でも理解る位赤く染まった顔。
あたし、どうしたんだろう?
担任の話はあたしの耳に届かず、全神経が藤崎君に集中していた。
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