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「あ~ぁ……追い付かれちゃったじゃん」
ナイフを持った男に追い詰められ、僕は深い溜め息をついた。
男は肩を怒らせ、ナイフを構えて僕の方へとにじり寄ってくる。あとほんの数歩でナイフが届く距離……逃げ出すより先に切りつけられるのは間違いないだろう。
「なんで……なんでお前は俺の邪魔をするんだ!」
男の怒声に、すかさず答える。
「別に、目の前で殺人が起きるなんて僕の正義感が許さないんだよ」
「ふ、ふざけてんじゃ…!」
「っていうのはまぁ冗談で、単に夢見が悪そうだなと思ったから。っていうかあんたの動機が腹立つ。
何、あんたの兄さんの経営してた会社が、あの女の旦那がやってた金貸しに手え出したあげく高利子で倒産して、それで兄さんが自殺したから復讐するって、あんた悲劇の主人公ぶりすぎ。
そもそもあんたの兄さんが、いくら小さい会社で苦しかったからって、闇金なんかに借金するからいけないんじゃん。しかもあんたの兄さんは自業自得だったって言ってたんでしょ?」
僕が『事実』をそこまで捲し立てると、男は明らかに焦りの表情を見せた。
「な、なんでそんなことを知って…」という男の言葉を遮って、僕は更にもうひとつの『実話』について話した。
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