第一章 セレブっぽい女性

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「あんたは知らなかっただろうけど、あの女はあんたの兄さんと不倫してたんだよ。それも本気であんたの兄さんを愛してた。 だから彼女は旦那にあんたの兄さんの会社への取り立てに猶予を与えることや、利子を減らすことを頼んでたらしいよ。まぁ、取り合ってもらえなかったけど。そして結局あんたの兄さんの会社が潰れたあとに浮気がバレて、ひどい暴力を受けた挙げ句に捨てられた」 男は、自分の知らなかった事実への驚きと、それを知っている僕への驚きとで、完全に混乱していた。 僕は更に続けた。 「それでも彼女は決して恨んでなんかいなかった。むしろさっきだって、『私が彼と知り合わなければ、そして彼にあの男の仕事のことさえ話さなければ…』って、ずっとあんたの兄さんの死に対して悔やんでたよ。まぁ、表に出さずに堂々と歩いてるのは立派だと思ったけど。 つまりあんたは、あんたの兄さんを愛してる女を殺そうとしてたんだ。僕にしてみたら馬鹿馬鹿しくて仕方ないね」 僕がすべてを話したとき、男は完全に意気消沈していた。それでも構えたナイフは下ろさず、弱々しい声で、 「そんな…そんな話、信じられるわけが……」 と言いかけたが、背後からの「手を上げろ!」の声に遮られ、恐る恐るそちらに振り向いた。
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