間章 友人A

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この人、ずいぶんと金を持ってるな……パチンコで勝ったとかかな? いつもの公園のベンチで深い眠りに落ちている三十代後半とおぼしき男性が、今日のターゲットだ。彼の思考は聞こえてこない。ぐっすり眠っているようだ。 それでも起こしたりしないように、慎重に懐から財布を抜き取る。そして中身を確認すると、中には二十枚近い一万円札が入っていた。 これなら、二万円くらい抜いてもわからないんじゃないか? そう思って、二枚の万札を取り出し、財布を元の場所に戻した。今日はちょっとくらい贅沢できそうだ。 僕は少しだけ上機嫌になって、軽い足取りで公園を後にした。 夜空を眺め、何も考えないようにしながら人通りの多い道へ出る。出来るだけ今の良い気分を味わっていたかった。 それが犯罪に手を染めた上で得たことだとはわかっていたけど、喜びなどというのはもう長らく忘れていた感情だった。もしかしたら、『あの事件』以来かもしれない。だとすると、実に3年ぶりのことなのだ。
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