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しかし、大通りに一歩ずつ近づくにつれ、人々の抱く強い感情が、言葉となって脳に響き渡るのを感じた。誰かが強い感情を抱くとき、それは負の感情であることが多いため、僕は当然その言葉ひとつひとつにネガティブにさせられる。
『あぁ、やってらんねえよあの糞課長! なにかというと俺に目をつけやがって、いつか復讐してやる……!』
『……受験には失敗するし、かといって人に自慢出来る特技もないし運動神経も最低だなんて、僕なんか何をやっても駄目なんだ……』
『どうして私がこんなめに遭わなきゃいけないの!? 雄二のこと信じてたのに……もういや、死んでしまいたい!』
『健太……どうしよう、あんなに明るかったのに塞ぎ込んでしまうなんて……。母親なのにこういうときに何の役にも立てないの? どうして、どうしてうちの子があんな……!』
『世の中不公平だ。どうして僕がこんなにつらい思いをしないといけないんだ、佐々木や平田みたいな何も考えないで生きてる奴がヘラヘラしてて、どうして毎日毎日努力してる僕がこんな不幸な思いをしなきゃいけないんだよ』
耳を塞いだところで、声はとどまることなく脳に押し寄せてくる。僕には、この地獄から逃れる術はなかった。
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