27人が本棚に入れています
本棚に追加
ふと、背後から僕を呼ぶ声がした。
「あれ、吉原じゃん」
思考が聞こえてきていたためそれより先に存在に気付いていたが、僕はあえて声をかけられるまで気付かないふりをした。
振り返ると、中学時代のクラスメートが立っていた。快活で社交的な性格で、クラスのムードメーカーだった奴だ。
「こんな時間に何してんの? 俺はさ、新しい塾に入ったからそこで勉強してたよ。せっかくの春休みが台無しなんだよなー」
そう愚痴を溢した彼は、その内容とは裏腹に、眩しいと表現出来るような笑顔を浮かべていた。
「そういえば、お前も同じ高校だっけ? 進学校とかってさ、正直息苦しそうじゃねえ? こんな風に入学する前から勉強しなきゃいけないならもうちょっと楽な学校にすればよかったー。あっ、もしかしてお前も塾帰りとか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「そうなの? そういえばお前ほとんど受験勉強しなくて受かったらしいもんなあ。本当、その頭脳を分けてほしいよ」
後半は、「嫌味っぽいことを言ってるけど本気で嫌味なわけじゃないですよ」と言わんばかりの口調だった。彼は人の笑顔を誘うような喋りを習得している。僕とは正反対の性格だった。
最初のコメントを投稿しよう!