第二章 僕の過去

20/20
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
病院での出来事からしばらくの間、僕はいくつかの感情と一緒に、テレパシー能力も麻痺させてしまっていた。 引っ越しの日、小学校時代の友達が僕を見送りに来てくれた。花を貰ったり、手紙を貰ったりした。 でも、彼らが本当に寂しがってくれていたのかどうかが、僕にはわからなかった。 それまで気付かなかったが、自分の能力に強く依存しているのだということに、初めて気が付いた。 心の声が聞こえないことなんて本来なら当たり前のことなのに、友人たちを信用しきれずにいる自分がとても汚い人間のように思えた。 地元の駅で、普通列車に乗り込む。彼らは、見えなくなるまで手を振り続けてくれた。 それに応えようと右手を顔の横まで上げるが、何故か僕にはその手を振ることが出来ず、ぎゅっと握り込んだ。 生まれて初めての新幹線には、伯父夫婦と乗った。きっと戻ってくることのない、片道切符だ。 僕はグリーン車の窓から外を眺めて、しばらく涙を流した。 その涙が友との別れを悲しむものなのか、両親を想ってのものなのかが、自分でもわからない。 僕は12年間暮らした土地に、目に見えない色々なものを置き去りにして、東京の伯父夫婦の家に引っ越した。  
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!