第一章 セレブっぽい女性

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僕がスリをしている公園には、桜が咲き乱れていた。 この一週間ほどの間に、何度酔っ払いの口ずさむ『夜桜お七』を聞いたことか…… ただ、確かに夜桜は綺麗だった。その眺めは、憂いを帯びた僕の心を癒してくれた。 あと3日で、4月か……。 これからどうやって生活しようか、僕は迷っていた。受験はしたし、当然合格したが、僕は高校に行きたくなかった。 向上心というものが僕にはないし、何より『あの人達』に養われたくなかった。 そしてそれ以上に、クラスメイト達が世間擦れして、純粋な心を失ってゆく様子が僕には分かって、辛かった。 推薦受験で合格した人や、自分よりも学力がある人に嫉妬する友人達。 他人を押し退けてまで自分がのし上がろうとする気持ちは、ほとんどの場合、中学生になってから急激に育つ。それを、身に染みて感じた。 同時に、彼等にいくつもの『顔』が形成されていった。 『心』はひとつでしかありえないのに、彼等は友人に対して、教師に対して、親に対してなど、臨機応変に『顔』を使い分ける。その姿は、とても、とても悲しいものだった。
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