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「きゃっ! な、何なのあんた!?」
セレブっぽい女性は、そう叫んで僕の手を振りほどこうとした。だが僕は、その細い手首をいっそう強く握って、昼間に吉野家で牛丼を頼んだとき以来、およそ9時間ぶりに声帯を震わせた。
「刺し殺されたけりゃ、足を止めればいい。どうせ、人に恨みを買う覚えはいくらでもあるんだろ」
背後を顎で指し示すと、僕らの後を追ってくる男の姿が見えた。予期せぬ事態に狼狽した様子で、懐からナイフを取り出し、物凄い形相で。
くそっ、何なんだあのガキ!!
男の叫びが、響きわたった。
セレブっぽい女性は、街灯の光を反射するナイフの刃を見て、一気に顔が青ざめていた。
女性は、途端に脅えた叫びをあげだした。
何? あれは誰?
どうして私がこんな目に
まさか、通り魔だわ! そ、
そうよ、
恨まれる覚えなんて、
恨まれる覚えなんて、
恨まれる覚えなんて、……!!
甲高い声が頭に痛かった。
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