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「ようやく、か」
溜め息混じりに呟くアテナ、拘束が完全に解け、自由が利く様になったのは、悪魔が姿を消してから二分程経過した後だった
〝まったく〟
理解できない、と、拘束が解けると同時に彼女は頭を横に振る
この人間にどれほどの価値が有るのか、見れば衰弱し、その蒼い髪に負けない様な顔色になっている、不死ではなく、ましてや不老でもない
ならば人々を導く立場なのだろうか、あるいは悪魔を使役出来る程に徳の高い人柄なのか
考える程に謎が深まる
あの悪魔が“使役出来る程度”ならば、わざわざ出向いたりなどしない
彼の悪魔は、アテナを敵視し、シフを殺せば許さないと、声にさえ出した
常識では考えられない行動である
アテナはこの世界の神では無く、天界の神ではあるが、その位の高さ故、赤子がはいはいを覚え、言葉を覚える様に、彼女の名と容姿も人々は脳に刻む事になる
街中のオブジェ、食器、家具、家の装飾、彼女を信仰する宗教
数え切れない程、いたるところにアテナの面影があった
彼女自身、それを理解している
自分の面影が街に溢れている様を煩わしく思う一方、神の威光を示し、各世界の勢力に敵対心を持たせない意味で利便性に富むのも分かっている
しかし
この悪魔は彼女を敵とし、彼女の発した“気”をものともせず、姿を現したのだ
青年の為に、神を、
・・・・・・・
世界を敵にする
そう、躊躇いも無く
考えがないと言えばそれで終いだが、言葉では表せないシフへの強い想いを体現していた
「…………一度ゆっくり、話を聞くか」
姿を消した悪魔に聞こえない程度呟くと、彼女は津波に埋もれた大地より、鉄を精製し始める
「即席だが、速度の出る飛行艇を造る、忠告するが彼を死なせたくなければ運航中は大人しくしていろ」
そう言うと、肯定するように一瞬虚空に目が映り、獣の様な唸り声が低く響いた
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