招く過去 拒否する今

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下げられた頭に、フォルネウスは「いえいえ、お構いなく」と両手を振る、どこか落ち着きの無い雰囲気 言葉遣いを考えているのだろうか、彼は丁寧な言葉で話す、確か前は一人称が“オレ”だった筈、それにシフの表情を伺う様な目をしていた フリオキスもそれに気付き、気を遣わなくてよいと諭す 実は彼女のこの発言は、シフ、ましてやフォルネウスの事を考えてのものではない、彼が気を遣い続けて敬語を話すと、必然的に自分までシフに敬語を話さなくてはならなくなる、それを回避するためである 位の高い他の悪魔が人間に礼節を守っているのに、自分が守らないと言う訳にも行かない、つまり彼女はシフという一人の人間に気を遣いたく無く、更にフォルネウスとの会話からも敬語を取っ払ってしまいたかった 堅苦しい会話は御免なのだ 丁寧な言葉だと、大好きなお喋り(彼女が一方的に喋り続け、相手が必然的に聞きに徹するやつ)も楽しさが半減する よくよく思い出せば、あまり話し相手が喋っていた記憶が無い気もするが、この際、細かい事はどうでも良かった 「しかし、」 案の定、フォルネウスが戸惑うが 「この人間の深層心里でこれから共に在るのです、命で繋がった私達の間に敬語など不要です、ありのままの言葉遣いで話して下さい」 すかさず、だめ押しでフリオキスが“良い言葉くさい”事を言う するとあまり気を遣うのもどうかと思ったのか、少し間を置いてから、フォルネウスは敬語を崩した 「…………ありがとう、オレの事をそんなに思ってくれて、もし拒否されたらって不安だったから」 「いいんだ、その方が私達も話しやすい」 最後で少し本音が出たが、とにもかくにもフォルネウスの表情は少しほぐれた、結果的に良かったと言えるだろう フリオキスは満足げにシフを見る、見られたシフはと言うと驚く程無表情だった あまりに表情に変化がない、言葉もまだ一言二言程しか口にして無いだろうに 彼女はフォルネウスに聞いてみる、普段はもっと口数が多いやかましい奴だ、何か様子がおかしい、と 聞かれたフォルネウスはじっくり考えて、激痛に次ぐ激痛が脳へ深刻なショックを与え、魂にその影響が出ているのではないか、との考えを出した
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