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「ともかく、髪と顔は拭くだけ拭いて、宿直室のシャワー借りよう。…問題は、その着物だけど…」
湯沸し機のお湯を洗面器に注いでいた士郎は、壮大にペプシ染みだらけになった藍空の着物を見て腕を組んだ。
「ウチの婆ちゃん着物よく着てるから、洗濯のやり方くらいは知ってると思うぜ。さっき、シロ、姉ちゃんに電話してたろ?姉ちゃんがここに来た時にでも相談してみろよ」
そう言われて士郎は頷いた。
「じゃあ、そうしようか。それなら祥史、とりあえず着物脱いでもらってよ」
「はぁ?!なんでオレが…」
いぶかしんだ祥史は、ふと、思い出して納得した。
なんだかんだ言っても、士郎は藍空の半径5m以内には近付いていない。
悪いヤツだろーがそうで無かろうが、生来苦手なものはやっぱり苦手なのだ。
(可愛いヤツ。ったく、しょーがねー)
「わかったよ、シロ。──ほれ、『自称・精霊』!着物洗ってやっから、さっさと脱げ!」
無遠慮にどかどか近付いた祥史は、有無を言わせず藍空の着物の帯に手をかけた。
「うわ!ちょっと!まだオトナの時間には早いって!」
ばたばたと袖を振りながら、藍空が後退る。
帯を手で鷲掴みにした祥史は面倒くさそうにそれを解きにかかる。
「いーじゃんか別に減るもんじゃなし。」
「うわ~ん(ToT)!士郎くんと扱い違い過ぎ~!もっと優しくして~!」
「ギャーギャー喚くなっての、たく、シロのがよっぽど扱いやすい…って、あれ?」
三人と一匹がダイニングの戸口を一斉に見つめる。
「文さん。」
「あ・姉ちゃん、久しぶり~」
士郎と祥史が同時に口を開いた。
戸口では丁度、なんだかもう、どうしようもないくらい眉間にシワをつくりつつ仁王立ちした香月祥史の姉、香月文がハリセンを手にしたところだった。
「アンタら…こんな早い時間から…」
「え?え?姉ちゃんなんかものスゴイ誤解してないか?」
まぁ、高校生一人暮らしの家で、制服の前をはだけた(だってお湯でぬれちゃったから)高校生と、上半身裸になった(だってペプシが飛びまくったから)小学生が、見た目なんかオンナノコっぽいコの着物を無理やり脱がそうとしてる光景に出会っちゃったら、大抵のオネーサンはこういう行動を取ります。
「破廉恥成敗!」
全盛期のランデイ・バースデイ並フルスイングハリセンが、夜の北洋高校に震度6強の地震をもたらしました。 とさ。
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