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────身長179センチ、体重は50キロそこそこだが握力が上限測定不能クラスの、通称『ゴッドハンド・アヤ』こと香月文は、少し日焼けした足を組んで長椅子に背をあずけている。
キッチンテーブルには『沖縄名物ミミガーブレンドゴーヤー』が置かれ、シュノーケルのはみ出したドラムバックは床に投げ出されたまま。
そして、眉間にシワを寄せた文が機嫌悪そ~な口元の煙草に火をつけようとした。
「姉ちゃんココ禁煙…」
「あン!?」
紅色に染めたショートカットの間から、鋭い眼光が祥史を射ぬく。
佐田士郎くんのお宅にいた三人と一匹はそれぞれ引っぱたかれて、簡単な事情聴取ののちとりあえず祥史一人が正座させられることと相成った。
「祥史…、アタシが誰か言ってみな」
「『延喜式香月流師範、香月文』です」
はために見ても怯えた表情の祥史が答える。
「そうだ。じゃあもう一つ聞こう、『延喜式香月流師範、香月文と言えば?』」
「…親も同然です!」
普通に小学生と、それを叱る教師の様な光景を見ながら、藍空が士郎に耳打ちした。
(ねぇ、あの二人って姉弟なんだよね?)
(うん。そうだけど…)
(じゃあ、『親も同然です』って表現おかしくないかな)
と、そこまで囁いた藍空の額に文の織った鶴がヒットした。
「痛ッ!」
「そこ!言いたいことがあるなら手を挙げて言いなさい!…まっ…たく…」
ライターの火打ち石が何度も火花を散らす。────が、なかなか火がつかない。
藍空がそれを見て、おずおずと手を挙げた。
「何!」
「ごめんなさい。ボク煙草嫌いなんで、そこの周りにある酸素…どかしちゃいました」
そう言われた文は、煙草をぐしゃっと握り潰した。
「──やっぱり上位精霊じゃない。何やってたのよ祥史。こんな危ないヤツ士郎くんに近付けるなんて」
口調は冷静だが、音温は北極圏のブリザード並だ。
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