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「今日はたまたま新作水着…もとい、書類を取りに家に戻って来てたけど、まだ沖縄に仕事残したままだから、祥史で手に負えないようなら防疫局に連絡して処理してもらうけど?」
「う~ん。防疫局まで呼ぶ必要はない気もする………いや、やっぱ呼んだほ~がイイかも……」
祥史がゆっくり文から離れる。
士郎も同じくそれに倣う。
「?……。」
首をかしげた文が、長椅子の脇を見るとそこでは────あろうことか、藍空とタマゴが文のドラムバックからいろいろと……旅行パンフや水着やサンオイルや……ともかく、そういった物を興味津津のまなざしで引っ張り出している真っ最中だった。
「わ~、やっぱり沖縄って綺麗だよね~。ボクはすぐ夏に追い出されるから、ここにはあんまり寄ったこと無いんだ。ねぇねぇ、ここの海はすごく綺麗ですよねオネーサン!……あれ?」
『藍空、ドウヤラこのニンゲンのメスはだいブアタマにキテルミタイダ』
「うん……そーみたい…」
──主は言われた。『右の頬をはたかれたら、左の頬もなんとなく痛い』、と。(ヨブ記第十二章第三節)
この場合、藍空とタマゴはそれぞれはたかれたのでなく、頬をつねられただけだった。
しかし、つねったのは握力上限測定不能クラスの文'sゴッドハンド。
タマゴは口(?)から泡を吹き、藍空は危うく三千世界へ旅立つ勢いに昇天させかけられた。
「ね・姉ちゃん!ここで殺しはまずいって!一応学校だから!」
(ここじゃなきゃ殺ってもいいの……か?)
恐るべき香月家の常識に、士郎は震え上がった。
「…そ・そうね。さすがにここで殺っちゃったら処理に困るもんね~。ナイス祥史。いいフォローだ!」
「なんの処理ですか…?」
かたかた震えながら思わずツッ込んでしまう士郎に、文は我に帰ったように頭をかいた。
「…ここまで実体化してる精霊なんて、ここ半世紀くらい出て来てないわね。多分」
藍空は文につねられた頬を押さえて床に倒れている。
「半世紀って、ちょうど戦争してたくらいの時頃ですか」
「…そう。あの時代はなにもかもが狂い始めた始まりなのよ」
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