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「あ!ごめんなさい…、勝手に『ちから』を使っちゃって…」
つねられ防止の両手ガードを発動しつつ藍空は小声でそう謝った。
「心を読んだ…ですって!?」
それを聞くなり長椅子を飛び起きた文が、藍空の手の上から両掌でその頬を挟み、瞳を覗き込んだ。
「わ!」
「じたばたするんじゃないの!────ふむ、浸蝕の痕跡…ナシ、か」
────この時、文の脳内にある『大阪商人並みモウカリマッカ自動演算装置』が、凄まじい勢いで算盤をはじいていた。
「ソードクラッシュの脅威ナシ。カラン海域への接続状態もナシ……アンタ、名前は?!」
「え、と、『藍空』っていいます」
「『藍空』?覚えにくいわね……よし!アンタは今日この場から『ポチ』!決定!」
アッチョンブリケ級に唖然とした顔になった藍空をよそに、文は士郎を商売人のまなざしで見た。
「で、『ポチ』のご主人様は士郎くん!決定!」
「ええええ?!」
「ちょ…、姉ちゃんいきなりどーしたんだよ!さっきまで防疫局がどーこー言ってたクセに!」
180°ターンを決めてみせた文の方針転換には、さすがの祥史もついていけないらしく、両手をブンブン振りつつ猛抗議を始めた。
と、にやり笑った文の腕がヘビのように祥史の首に巻き付いた。────いわゆるヘッドロックの体勢に移行した。
「…馬鹿ね~祥史。良く訊きなさい」
「…はい」
小声のうむを言わせぬ迫力に、祥史は素直に従った。
「ソードクラッシュによって顕在化した形跡が無く、精霊がその存在を繋げているカラン海域とも完璧に離脱してる────この意味解るわよね?」
「はぐれ精霊…ってコトだよな。でも、戦中・戦後しばらくはちらほらいたってバーちゃん言ってたけど」
「それは、結局なにかしら『繋がって』存在していた『精霊群』の話よ!時空間とその存在を繋げている、複数の精霊が寄り集まったモノのこと。この『ポチ』はもう完全に繋がりを断絶してる────つまり、古来の超優秀な陰陽師しかなしえなかった『単独召喚』と同じ事が起きてるの!」
興奮気味にささやく文の細腕と胸に圧迫されながら、祥史はとりあえず頷いてみせたあと、イヤな予感を感じてとりあえず訊いてみることにした。
「…姉ちゃん、ひょっとしてコイツを飼えって言ってんの?」
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