あおいろ

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春の終わりは、大抵物悲しかったり、目の前を霞が覆ってしまうようなさみしさを覚えたりするもので……。 とある学舎の中庭に、満開の桜色と共に在る古木。 その桜花の吹雪を気まぐれに舞い散らせながら、水色の淡い着物を身に纏った小柄なヒトの似姿をしたものが、かすかにため息をついていた。 桜の古木を包むように建つ学舎は、かなりの歳月を重ねた木造校舎で、今時分はヒトの周期で言うところの短い春の休暇期であるから静かなものだが、いつもはやんちゃな子どもたちが走り回るから、年老いてくたびれかけの屋敷神は少々お疲れの様子だ。 桜の古木は、学舎よりも遥かに年長のためか、最近は春の精霊たちが依り集っても一言二言何ごとかを呟くばかりになってしまった。 かく言うボクは…。 一抱えもある太い枝に腰掛けたひとりの春の精霊。 他の同輩たちは、すでに風に乗り次の春を求める場所へと向かっている。 精霊が去ったこの場所は、やがて次の季節をその身に宿した別の見知らぬ精霊が訪れる。 つまるところ自分がこのまま居座れば、この場所だけはいつまでも春が終らない事になってしまう。 『坊はまだここにいてくれるのかね』 ため息に気がついたのか、桜の木がゆっくりとした口調で精霊に問い掛けた。image=47302478.jpg
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