闇の柔らかな肌

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 ポチ、…こと春の精霊『藍空』は、ゆうべペプシで壮大な染みをつくった着物を文に預け、代わりに文が予備に持っていた制服に着替えていた。  「こんな♂か♀かわかんない奴に、女子高生のカッコさせんのどーかと思うけどな~」  「いーじゃーん別に~!あやちゃんも『可愛い』って言ってくれたもん!」  「コラコラ、話が先に進まないっての」  炊事洗濯分担表で祥史とポチの頭を小突いた後、士郎は周りを見回した。  「タマゴ、え~っと、たまちゃんだっけ?今朝からいないけどどこ行ったんだろ。せっかく餌用意してたのに」  心配そうな士郎の様子を見て、ポチが微笑んだ。  「たまちゃんなら、たぶんどこかに生肉食べに行ってると思うよ。あのコ、動いているものでないと、美味しくたべられないんだって(^-^)」  それを聞いた士郎と祥史は、ぎょっとして互いに顔を見合わせる。  「あ…ああそう生肉ね…」  「おい、俺イヤだぜ、朝からさっそく屍体処理なんて…」  とりあえず今の二人には、運の無い哀れな誰かさんがタマゴの犠牲になっていないことを祈るばかりだった。  「早くボクたちも食べようよ。オムレツ冷めちゃう!」  「はいはい。じゃあ食べようか。…こら、祥史。ナイフとフォークはちゃんと使わないと」  祥史が士郎の警護に就いてからかなりの日にちが立っているが、実は食事を共にしたことは一度もない。  士郎はいつだったか、祥史が家でも食事をせずに外食で済ませている、と言う話を文から聞いていた。  だから、祥史には士郎が自分で作った料理を食べさせてあげたい。  士郎は、生まれてこのかたずっと一人だったから、一人きりの食卓が何より悲しいと知っている。  だから、二人でいる時は一緒にご飯を食べよう。  そう士郎は常々祥史に言っていたのだが、(照れる)祥史の激しい抵抗に遭って今日まで実現出来なかったのだった。  「でもさ…」  「なに?祥史。ベーグル固すぎた?」  かいがいしく給仕をしてしまうあたりは、やはりお人好しの感が強い士郎に、口元のケチャップを拭ってもらいながら、祥史がポチの様子を眺める。  「ポチって、確かに物凄い『チカラ』を持ってるけど、ソードクラッシュに対抗できると思うか?」
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