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窓硝子が砕け散り、次いで空気を震撼させる第二破の衝撃がプレハブの壁を半壊させた。
咄嗟にテーブルを押し倒し、飛散する硝子や壁材から士郎と自分を隠した祥文は、手早く士郎の身体を探った。
(──とりあえず、気を失ってくれてて助かったぜ。突っ立ってたら硝子の破片で大怪我ってとこだ)
祥文の周囲を数羽の折り鶴が舞っている。
危険が及んだ時、自動的に発動する術の一つだが、これは祥文を守るためにしか機能してくれない。
術が発動し、テーブルを盾にしたものの士郎がもし立ったままであったなら、割れた硝子の破片が容赦なく彼の身体に突き刺さっていたはずだった。
「ポチ!外のヤツラが何人か教えろ!」
士郎の無事に胸を撫で下ろすと、祥文に怒りが込み上げて来た。
「タマちゃんの食べ残しが三つあるみたい」
「…今度は残さず完食しろって言っとけ!」
ポチが発した声の位置から、ポチが先ほどと同じ場所に立ったままということにやや驚きながら、祥文はテーブルの陰からポチのほうを覗き見た。
────そこには、“闇”が拡がっていた。
正確に表現するなら、夜明け前の濃い青色、藍色の空がヒトの様な姿を形作っていた。
砕けた硝子は、その藍色の闇に触れることなく空中で静止したまま。
「ポチ…オマエその身体────」
「え?ああ、ゴメンゴメン。びっくりして元に戻っちゃった」
笑い声とともにポチの形をした闇が薄れ、元の制服姿が祥文を振り向いた。
「ゴメンね。『流刑地の住人』はキミたちニンゲンとはココロの造りが違うから、近くに来てることに気がつかなかったんだ」
「『流刑地の住人』ってのは、ニンゲンじゃないんなら一体何なんだよ?」
怪訝な面持ちで祥文が尋ねる。
「空間に汚染されたニンゲンのコト。チェルノブイリで原子力発電所が事故起こした時に、北ガヴァナンドで急激に増殖しだしたニンゲンであってニンゲンではないモノだよ」
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