闇の柔らかな肌

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 ───延喜式多重結界織神をナメんなよ…化け物ども。  瓦礫を踏み越え、祥史はプレハブの外に出た。  やや無警戒とも言える大胆さだったが、それには理由がある。  祥史は、普段手元に置く折り鶴とハリセンの他に、数十の紙飛行機を上空で常に待機させていたのだった。  術の発動とともに、紙飛行機は高速で下降し、目標を殲滅する。  「命中までコンマ5秒。避けれるもんならよけてみやがれってんだ」  祥史は、朝日に照らされた屋上をぐるりと見渡した。  見渡しながら、ふと違和感にとらわれる。  (…ゆうべ、姉ちゃんは『防疫局』の名前をだした。名前を出す時は、防疫局の連中が近くへ出張って来てる時…のはず)  藍空やタマゴはもちろん、今の襲撃に対して口五月蠅い防疫局どもが顔を見せない。  その場合考えられる事はたったひとつだった。  「空間を捩じ曲げてやがんのか…」  とっさに祥史は、プレハブの屋根に飛び上がった。  『空間が捩じ曲げられている』のが確実になった現象が、いきなり眼下に拡がり始めた。  緑掛かった水飛沫が跳ね上がる。  プレハブ小屋が建っているはずの屋上はすでに、底知れぬ緑晶の海原へと変容していた。  しかし、空には先程と変わらぬ六月の朝日が昇ったままだ。  「限定空間変換か…すげ、はじめて見た」  突然の出来事にも、祥史は比較的冷静だった。  屋根から周囲を見渡すと、校舎の屋上を上限とした半球体の空間が緑色に染まる海原を形成しているようだ。  祥史が展開したままの多重結界はまだ生きていたし、なによりも  (…姉ちゃんより怖いものはオレには存在しねぇしな)  というわけで、祥史は特別動揺することなく臨戦態勢に入っていたのだった。
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