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六月になっても散らない桜、で一躍ワイドショーの話題に上ってしまった私立北洋高校。
桜の古木自体は春の名所として地元紙に写真が載ることはあっても、古びた木造校舎は戦前のままで、大きな桜の木とオンボロ校舎以外取り立てて注目を集める事はなかった。
しかし今年は、『散らない桜』に、もう一つの『桜にまつわる出来事』が重なっていたために、ワイドショーの過熱ぶりが押さえられない状態になってしまったのだった。
真昼だと言うのに人気のない、そのオンボロ校舎の廊下を歩く二つの人影。
「臨時休校で助かったな、シロ」
幼い生意気な口調が、上背のある少年を見上げた。
「よかないよ。ただでさえ、テレビ局が押しかけてくるせいで授業が遅れてたってのに」
ぼやきながら、縦二ツに結った髪を振る少年は、切れ長の目で幼い表情を睨み付けた。
「シロって呼び捨てにするな。だいたい、今年六年生になったばっかりのガキが堂々と高校に出入りしていいと思ってるのかよ、祥史!」
「しょーがないだろ~。シロのボディーガードやってくれって、姉ちゃんに頼まれたんだからさ~。」
親の顔が見てみたい、という言葉がしっくりくるくらい金髪に頭を染めたチビッコが笑いながらかすかに歩調を早めた。
「そもそも、他人に相談出来ない悩みがあってウチに依頼を持ち掛けてきたのは、いったいドコのダレだったのかナ~?夜はひとりでトイレに行けない佐田士郎クン。」
「て…っ、テメェ!このクソ餓鬼ッ!」
歩くだけでもギシギシ撓む廊下で、いきなり真剣モードの鬼ゴッコがスタートした。
「あははッ!あんまりコーフンすると、新聞に載った桜のオバケが出~て来るぞ~!」
祥史、と呼ばれたチビッコが喜々として走りながら校舎の中庭に面した渡り廊下へ飛び出した。
「こんな陽の高いうちから出て来る幽霊があるかッ!」
叫んで祥史の後を追った佐田士郎も、上履きのまま渡り廊下に駆け込んで来た。
桜吹雪の舞う誰もいないはずの中庭で、素頓狂な大声を聞いたのは二人同時だった。
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