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『目が合った』
本来ならこれは、取り立ててどうと言う事のない、例えば細い木のナンバーをくっつけた子や893とガン睨みの状態になったなら命の保証は無いとしても、ほとんどの場合他愛のない出来事であるはずだった。
しかし今回の状況は、少し普通とはかけ離れていた。
『いま六月なの!!?』
ハイトーンな音域の直撃を鼓膜に受けた祥史と士郎、そして声を上げた当人の視線がぶつかった。
水色の淡い着物。櫛や簪を彩る桜色の髪。白粉で染めたような肌に桃華の輝きを思わせる唇が印象に深く現れる。
演劇や写真で見る限りならば、そのような容姿を身に宿した美しい人姿と言えるはずだ。
桜吹雪の舞う中庭で、袖を風に揺らしながら、着物姿のヒトらしきモノが何ごとかを喋りかけた。
「延喜式六角織神!!!」
叫んだ祥史の指先から放たれた折り鶴が、火薬の弾けるような炸裂音とともに春の精霊の頬をかすめた。
「オレは延喜式香月流の(見習い)退魔師、香月祥史だッ!佐田士郎にたかる悪霊を祓うために雇われた!貴様はさぞ名のある妖異と見受けるが、ここで会ったが百年目、この世の悪は神に誓って許しはしない!いざ尋常に勝負しろ!!」
沈黙。
一息に口上を述べた祥史の剣幕に目をぱちくりさせ、鶴がかすめた頬を少しさすりながら、春の精霊が片手を挙げた。
「…えっと、二ッ三ッ質問よろしいでしょうか?」
顔面蒼白の士郎の前で、仁王立ちになった祥史がいぶかしみながらも答えた。
「…何?」
「あのね、『神に誓って許しはしない』のくだりなんだけど、それって『火曜サスペンダー戦隊ゴサスペン』のキメ台詞?」
再びの沈黙。
「なんで知ってんだよ」
顔を赤くした祥史が唇を尖らせた。
「だって今朝がた、そこの二階でキミたちが観てたから。再放送だから画質が悪いってぼやいてたじゃない」
「よく喋る悪霊だな…」
祥史の肩にしがみついている士郎がおそるおそる呟いた。
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