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「て、ゆーか文さんも自分の弟に危ないモン持たせるなって…あれ?」
士郎が、やる気満々の祥史の襟を掴んだ。
「祥史、タマゴに文字が浮かんでる」
「はあ?!何馬鹿な事……ほんとだ」
唖然とする二人の前に立ち塞がるタマゴの表面に、書きなぐった様な文字が浮かんできた。
『藍空ヲ泣かせル奴ハ許さナい』
「アイツが勝手に泣き出したんだろーが!!」
言うなり祥史のフルスイングがタマゴを直撃した。
全盛期の中村海苔、いや、落ち居合ヒロミツ並の神主打法がタマゴの芯をとらえ、タマゴは無回転のまま北洋高校二階の職員室へ、壁やら窓やら机やら書類やらをまき散らしながら轟音とともに飛び込んで行った。
「文姉ちゃんのハリセンは、やっぱり無敵だぜ!」
「まぁ…、劣化ウランコーティングだからな…」
引きつった笑いを浮かべた士郎がため息をついた。
「なんかスゴイ事になっちゃったね~」
破壊し尽された職員室と、祥史の手にあるハリセンを見比べつつのハナ声が、士郎をギョッとさせた。
「士郎くんと、祥史くんだっけ?」
「そうだけど…アンタ一体なんなんだ」
後退りながら士郎は、泣きはらした顔のヒトらしきモノに尋ねた。
「ボクは『アイイロノソラ』。漢字で書くと『藍空』。春の精霊です。」
「もう夏近いんだけど」
士郎が言うと藍空は困ったように頷いた。
「どうやらボクは季節を間違って此処に来ちゃったらしくって、しかもなんだかいろいろ『忘れて』るみたいなの。だから…」
「断る」
一を聞いて百を理解した祥史が早々に結論を下した。
「イジワル~!こんなに困ってるのに!」
「自分のマヌケは自分で片をつけろ。元・怒ジャースのマイック・ピッツアも自伝にそう書いてる」
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