ピアス

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「SMねー」 隣から聞こえてきた突拍子もないその発言を、栞は黙って聞き流した。 明らかに場違いなその言葉が、納得とも、関心ともとれるため息と一緒に出てくるのか、栞にはわからない。 自学研鑽室に、マナーモードの意味はない。 カタカタとせわしく動くその音が、隣にいてひどく耳障りだ。 その隣で、評定が5になるか4になるかの瀬戸際に立たされている女がいることを思い出してほしい。 せっせとノートを埋めていく栞の手に、突然時子の爪が刺さった。 「栞、SMって」 「ない」 顔も上げず、そう切り返した。 時子が突然爆弾を撒き散らすことはよくあるが、今は大人しく黙ってもらいたい。 「えーすーえー」 「騒音反対」 地雷を踏んでつまみ出される前に、栞ははっと顔を上げた。 それに満足したのか、時子は唇の端をにっと吊り上げる。 勝ち誇った人間の顔だった。 栞は、半ばあきらめたように赤ペンをノートに放り投げた。 眼鏡を外し、時子と顔を向かい合わせる。
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