職場の人々

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僕が今の課に異動してから一年経って、そいつはやってきた。 短く借り上げた髪に少し吊り上がった目、会話の際にもあまり人と合わせることのないその目は、彼が笑うと顔全体を持ち上げているかのように更に吊り上がる。 次は、僕の後輩にあたるC男の話である。 彼が異動になってきた時、僕の課ではちょっとしたざわめきが起こった。 数人が異動してきたので、C男をどの係に入れるかで係長たちが揉めたそうだ。 噂によるとC男は、中学校は全国でもトップレベルといわれているところを卒業したらしい。 そんなC男のことで係長たちが揉めた 争奪戦か。かなり優秀なヤツなんだろうなあ、と事情を知らない人なら言うだろう。 しかし、異動が決まり彼がやってくる直前、C男のことを全く知らなかった僕は、彼の様々な噂を事前に耳にした。 以前から見たことはあったが、あごを少し前に突き出し、背筋をこれ以上ないくらいに真っ直ぐにしたまま、廊下を滑るようになめらかに異動していく姿しか印象にない。少し変わっているという話を聞いていたが、いざこちらにやって来るとなると、噂の内容も具体的に知るようになった。 人の目を見て話しない。失敗を責めたてられると突然キレて帰ったことがある。まともに事務打ち合わせができない。自分の車を事故って何度もつぶしている等。 たくさんの情報の中に、彼に関する良い噂は一つも流れてこなかった。 しかも、C男は僕の職場の採用試験を3年連続受け続けてやっと採用されたらしい。 係長たちもそれを知っており、水面下で押し付け合いを行っていたのだ。 なぜ人事課は、彼を採用したんだろう。私が人事ならまず採用しない。何人もが同じことを言っている。 当然そんな話を聞いている僕の係もちょっとした混乱に陥った。 ただでさえ忙しい中にC男が来たらどうしよう。 A子、B子に更にもう1人強烈なヤツが加わる。想像しただけで恐ろしかった。
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