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嫌な予感というのは、当たらないと何もなかったようにすぐに忘れてしまうが、的中すると、やっぱり予感があたったと騒ぎたててしまう。
よくパチンコや競馬で、普段は負け込んでいても、たまに勝つとみんなに話たがるのに似ている。
偶然を自分の実力と勘違いしてしまうのである。
C男が僕の係に来ることが決まった時にも、嫌な予感が当たったと、係内全員が静かにざわめいた。
C男は受付に一番近い席に決まったため、まず窓口対応から覚えることになった。
記憶力はかなり良く、話をする時も人と目を合わさない問題点はあるものの、窓口の仕事もすぐに覚えたし数字にも強かったので、C男のことを噂でしか知らない僕は、結構大丈夫だなあ。と感じていた。
しかし異動から数日経って、たまたま僕がC男と隣同士で接客をしていた時に、彼は目を疑うような行動をした。
客の中年女性が書類に認め印を押そうと、カバンから印鑑ケースを取り出し、中から印鑑を出した瞬間、あのつり上がった目で客とは違う方向を見ながら何を考えたのか、C男は突然無言で女性客の手から印鑑を取り上げ自分で書類に印鑑を押したのである。
そして、押した瞬間我に返ったように、「印鑑押させてもらいますね。」と慌てた様子で押し終わった印鑑を客の手に返したのだ。
客も怪訝な顔をしていたが、特に騒ぎたてることもなく帰って行ったが、僕はその出来事に驚き、C男にまつわる、様々な噂が事実であることを確信した。
そのあとで僕は彼に印鑑のことを注意したのだ。しかしその数日後、今度は書類の内容説明を受けに窓口に来た客が手にしていた封筒を、窓口に出た瞬間、相手が何かを言う前に無言で奪いとり、中身を出したあと「封筒の中見せてもらいますね」と慌てた風に言ったのである。
またしても、受付で何をしに来たかを言う前に、いきなり自分の書類を取り上げられた客のびっくりした表情に、こっちも驚かされたのだ。
C男は珍しいものを見ると瞬間的に、何かしらの行動をしてしまうようだ。
再度僕は彼を注意した。
ところが彼への注意はそれどころで済むことはなく、それからほぼ毎日、A子やB子、係長や他の係員から毎日何かしら違う内容で注意を受けていた。
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