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警察にも定時があるのだろうかと頭の片隅でちらっと考えながら、捜索願いの手続き書類と奮闘していた大将の肩を叩いたのは、見知らぬ若い男だった。
「その女の捜索願いは出しても無駄です。『佐藤麻由子』という女は、存在しない」
その男が、昨夜麻由子を連れ出した張本人だとは大将は知る由もない。
だが男の方は大将を見知っていた。逃走中の『容疑者』を匿っていた店の主人として。もしくは……。
大将のミミズ文字が這った書類を奪うようにして手に取ると、若い男はぐしゃりと書類を握りつぶした。
「言っている意味がわからない……麻由子は夕べまでうちにいたんだ。いないわけがないだろう!」
訳もわからないまま、大将は食い下がった。
「今から、ご説明します」
その若い男は、警察署の奥へと大将を案内しながら、自分は刑事だと名乗った。そして、麻由子……本名、内田麻由美は逮捕されたのだとも言った。
大将は自分が容疑者を匿った男として疑いをかけられると同時に……被害者ではないかと思われている事も知った。
「……声を出さないで下さい」
音を立てぬように扉を開きながら若い刑事がそう言い、大将は暗い室内へと通される。
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