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「お前が突き放したモノを取り戻すには、たくさんの時間が必要だからな。あの男にとってはこれが一番、良かったのだろう」
鉄格子の外側から、刑事は辛そうな顔つきで言うと、留置所を後にした。
冷静になった大将は気づいていた。麻由子がどんな気持ちであの言葉を吐き捨てたのかを。
「……俺は、君の故意を受け取るべきなのか?」
上がりかまちに腰かけたままで、自問自答する。
取調室で流した涙が、本当の麻由子の気持ちだろう。麻由子が本当の自分で居られた場所は、きっとここだけだったのだろう。
それを押し隠して『内田麻由美』の顔をしたのは、麻由子が刑期を終えるのを待ち続けると言いかねない大将のためなのだろうと、わかってきた。
「君の……故意は……優しく慎ましい麻由子そのものじゃないか」
麻由子はいなくなった。佐藤麻由子は内田麻由美に戻った。
だが、内田麻由美の故意そのものが、いなくなったはずの麻由子なのだと気づいた大将は、何かを決意したかのように、顔を上げた。
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