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真実
憔悴した顔つきの大将が店に戻った時には、暖簾はしまわれて店先の明かりも消されていた。
店の座敷には大の字になっていびきをかくやっさんがいるだけだ。
ずいぶん飲んだのだろう、揺すっても頬をつねっても起きる気配はない。
大将は上がりかまちに腰を下ろすと、深いため息をついた。
「だいたい麻由子は、迷い込んで来た猫なんだ。いつかは居なくなるかもしれないと、思っていた」
それが自分の本心でないと知りつつ、独り言を呟く。
やっさんが相変わらず高いびきしているので、聞いていないのを確認するかのように、少し声を大きくした。
「内田麻由美、なんて誰だよなあ」
やっさんが聞いていないことを願いながら、吐き出した。
「あいつは、麻由子じゃなかったよ。俺の知ってる、麻由子じゃ……」
一刻前を思い出しながら、ずっと掛けたままだった前掛けを手でギュッと握りしめた。
警察署内は妙に人影が少ない。それもそうだろう、時刻は夜7時を回っていた。
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