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昔々、あるところに、心臓に重い病気をもった若者がいました。彼の名前は『エル』と言います。
エルは、病気を持っているということもあり、雇ってもらえる仕事場がなく、貧乏な暮らしを余儀なくされていました。
そして、いつからか、村の人々は、エルと距離を置くようになりました。
そんなエルは、村から少し離れた丘の大きな1本の桜の木が大好きで、年中桜の木の木陰で昼寝をしたり、木に登って村の景色をみたりしていました。
そんなある日の事です。その日は朝から大雨でした。エルは、必死になって貯めたお金でパンを買いました。そして、お気に入りの桜の木に帰ろうとした時、すぐとなりの家の中から会話が聞こえてきました。
『あのエルとか言う子、汚らしい格好して一日中落ちてるお金を拾って周ってるらしいわよ』
『え~!嫌だぁ~、醜い子ね』
『そんな奴はこの村にいらないよな~』
『本人にそう言ってやれよ』
『嫌だよ!あんな奴と口もききたくないね』
『ハハハ!』
エルは悔しくて悔しくてたまりませんでした。そして涙が止まりませんでした。
エルは、止まらない涙を拭いながら、大雨の中、走ってあの桜の木に帰って行きました。
桜の木に帰ると、黄色っぽいぬいぐるみのような物が見えました。涙でぼやけていた目を擦り、それに近づいてみると、それは、1匹の仔犬でした。大雨で濡れていたせいか、ひどく震えていて、今にも倒れそうでした。
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