ハジマリは笑顔

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「どっ…どうしたんですか一体…」 職員玄関に差し掛かる頃、俺はどうしようもなく気になって、島野先生に問い掛けた。 靴を履きかえ、眉間に皺を寄せたままじっと俺を見据えた島野先生は、何か言いたそうな様子だった。俺はその視線にたじろぎ、思わずごくりと息を飲み込んだ。 「…ごっ、ごめんなさい!」 耐え切れなくなって、思わずびくびくと怯えながら発した言葉がそれだった。あぁ、終わった…。成就しなかったとはいえ、生徒に許されない恋心を抱いてしまった代償は大きい。苦労してようやく就いた教師という職だったのに。たった一度の感情の高ぶりで失ってしまうんだなぁとぼんやり考えていた。田舎の両親に何て説明しようか、とも。 「何言ってるんだ、浅香先生」 「……はへ…?」 「校長が呼んでるんだよ」 声をひそめるようにして、島野先生が俺に呟いた。 「あぁ…更に終わった…」 校長室に呼ばれるという事の恐ろしさ、それは経験の浅い自分でも重々承知しているつもりだ。百歩譲って、褒められる可能性もあるとしよう。でも、この目の前の島野先生の慌てようと言ったら…。これは嫌でもマイナスな方を考えざるを得ない。 どうしようもなく、天を仰ぐと、「いいから早く来て!」と腕を引っ張られた。何がいいんだ、これで教師生活も終わり…少しぐらい走馬灯のように流れる思い出を噛み締めさせてくれ。 「失礼します。校長先生、浅香先生を連れてきました」 いつの間にか校長室のドアはノックされ、開かれた。足に鉛が付いたように重くなって前に進まない。その様子を見て、島野先生が俺を室内へと引っ張った。 パタン、とドアの閉まる音だけが響いた。 目の前には、校長先生が座っている。 「浅香君、よく聞くんだ」 あぁ、さよなら俺の教員免許――… .
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