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バスの中には不揃いに、幾つもの寝息がたてられている。僕もその中に混じることが出来ればいいのだけど。
眠たくも無いのに瞳を閉じても眠りは訪れないままだった。
僕はバスの中に、さっきの女性を探した。話がしたかったのだ。そして、今自分が、自分の事を素直に話せるとしたら他に思い浮かぶ人間なんていない。
僕の二つ後ろの席に彼女は座って居た。眠らないまま、窓の外を見ている。
僕は彼女の隣の席に近づいて、話しかけた。
「隣、いいですか?」
不意に声をかけられた彼女は、それでも微笑んで
「どうぞ」
と言ってくれた。僕はその席に座った。
「迷惑じゃなければ、少し話したいと思って」
「私も、誰かと話したいと思っていたの。丁度良かったわ」
彼女は少し、淋しそうに笑った。
「このバスで運ばれていく人は旅行が多いのかしらね」
「多分。僕は違うけど」
「そうだと思ったわ」
そう言うと彼女は窓の外へ視線を移した。
「この景色は片道切符で行く旅の景色なのね、あなたにとっては」
僕は頷いた。
彼女は再び僕に視線を戻して言った。
「そして、私にとってもね」
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