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まだ朝は遠く、辺りは少しの灯りと濃い闇がある。
周りの人達は眠っているようで、バスを降りたのは僕たちだけだった。
駐車場の車はまばらで、数えられる位の人しかいない。
僕たちはベンチに腰かけて、そんな景色を眺めている。
「さっきの話」
彼女は急にそう切り出した。
「私の涙もきれいなもんじゃないのよね」
僕は何も言わず、彼女を見つめていた。
「失くした幸せはまた見つけなきゃならないのよ。それが大変だってわかってるから手近な繋がりの中に探してしまう」
「引きずってないくせに、引きずる振りをしたり?」
僕がそう応えると、彼女は肩をすくめて言った。
「騙したいのは自分自身ね。どうしたって下らない話だわ、本当に。空っぽになったことを認めたくないのよ、少しでも残して、そしてまた満たせるって信じたいの」
「0から1、じゃない方がましだから」
「近くに何も無ければそんな風に考えずに済むかもしれないと思って、街を離れるのよ。私は」
僕は彼女の言おうとしている事がわかった。自分自身で考えて、形に出来なかった答えでもあったからだ。
「前向きに、逃げたんだ。僕も」
彼女は少し笑って言った。
「私達は同じね」
「似てるけど違うよ」
「同じような傷口を見せあってるだけ?」
「うん、きっと」
彼女は
「慰めて欲しいの?」
と聞いた。
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