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彼女の瞳には暗い光が宿って、でもそれはとても美しい。
キラキラとしたそれではなく、退廃した街に届く淡い月の光みたいだと思った。慰めて欲しい?
僕は一時の慰めなど要らないと思う。虚しくなってしまうから。それだけで何も残らないなら、苦しいだけだ。
けれど、そんな瞳をした彼女になら慰められたいと思う。矛盾しているけれど。
結局のところ、僕は彼女に恋をしてしまったのだ。 その瞳の色に。
僕が応えずにいると、彼女は
「私は慰めて欲しいわ」
と言った。僕は何も答えず、彼女を抱き締めた。
彼女の身体は細く、頼りなかった。
彼女は僕を抱き返して言った。
「不思議ね、バスの中で出会った相手と抱きあってるなんて」
「こんな事を、運命なんて呼ぶんだろう」
僕がそう言うと、彼女は笑った。
「お互い名前も知らないままなのに」
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