Ⅲ.千里眼

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   真っ青な空がどこまでも続いていた。三日三晩荒れ狂っていた吹雪は嘘のように去り、風は凪いでいる。  眼下に広がるフェルロンの首都は、ようやく戦闘の混乱から立直りつつあるようだった。城を初めとする高い塔にはソランド帝国の鮮やかな色合いの旗が立てられ、灰色の軍服を着た兵士たちが街中にたむろする。  道の真ん中や広い屋敷の裏庭などには、寒さをしのぐためにところかまわず大きな火が焚かれている。兵士たちがその周囲で身を寄せ合って暖を取っている様子を見、彼は人知れず微笑んだ。  ソランドの一般兵はほとんどが南国育ちの若者だ。雪など見たこともない彼らには、高地フェルロンの気候はさぞや堪えることだろう。  次の吹雪が来る前に、彼らが凍えないような処置を取らねばならない。戦いずくめの彼らが、疲労から不満を漏らすようになれば軍の士気に関わる。  彼は何度も旋回しながら、都の様子をつぶさに観察して回った。  城壁の外へ目を向ければ、戦闘での死者よりも凍死者の方が目立つ。吹雪の中、家を奪われて行き場のない人々は凍えるよりほかなかっただろう。こちらも、早急な対策が必要だ。    そうして日が天頂に達する頃、彼はその目を北へ向けた。今はもうソランド帝国のものとなった古い王城を飛び越え、隣国マーラとの国境を隔てる連山を目指す。  彼はそこに、一つの捜しものがあった。  王城の背後を守るかのように聳える山々では、高低の激しい岩場や分厚く雪を被った針葉樹のこずえの所々に、灰色の軍服を着た小隊の姿を見つけることが出来た。山肌を這うように細々と続く街道は、マーラへ抜けるための唯一の道らしい道であり、そこには蟻の子一匹見逃すまいと、多くの部隊が詰めている。  しかし、そんな厳戒体制を敷いているにも拘わらず、目的のものはまだ見つかっていない様子である。    街は捜し尽くした。後は山に逃げ込んだとしか思えない。  もっとも、昨夜までの吹雪の中を無事に生きながらえているならばの話だが。
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