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雪はなおも降り続く。
古来より城の背後を守り続けてきたレイオーニ山は、逃げ込んできた二人を受け入れ、敵から隠してくれるに違いない。
二人で支え合い苦労して登ってきたのだが、暗闇と怪我のせいで猛々しい連山のほんの入り口付近で力尽きてしまった。
しかし、それでもいい。この山が、二人の墓場となるのだ。
愛しいレニー。
吐息だけで、もう一度呼ぶ。
わたしを置いていかないでおくれ。
すぐに追いかけるから、待っていて欲しい。
冷気を吸い込む度に胸が痛い。
遠くで、地鳴りのような爆発音が上がる。武器庫の火薬に引火したのかもしれない。
一体どこまで破壊すれば気が済むのだろう。こんな許される筈のないことが、何故現実に起こるのだ。
逃げ惑う人びとの悲鳴を聞いたような気がして、シーナは顔を歪めた。
家を焼かれ、家族を失ってなお、生き延びた民はどうなるのか。
天におられる聖人の御名に、彼女は祈った。
生き延びた民に少しでも多くの幸福を。
死にゆく者に安息の時を。
祈ることしか出来ない。
非力だった。戦場になった都が、彼女にその現実を突きつける。
こんなふうに寒い夜は、家をなくした民は凍え死ぬしかない。
生身の人間の命はこんなにも弱く、脆い。
「ここで死ぬのか」
不意に、頭上からそんな声が聞こえた気がした。
天からの聖人の声だろうか、とぼんやり思う。そう感じるほど、その声は静かに頭の中に直接響いてきた。
「――死にたいのか」
その問いになんと答えたのか、彼女は覚えていない。
ただ、もうろうとした意識の中で、自分の身体が持ち上げられるのを感じた。
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